小学生の頃の夏休みは、体感で3ヶ月くらいあった気がする。今の8月なんて、気づいたら後半戦に突入していて、去年の8月と何が違ったのか正直あまり思い出せない。
「歳を取ると時間が経つのが早く感じる」というのはよく聞く話だし、実際に自分でもそう感じている。ただ、この現象について、たいていの記事は「大人になると時間の使い方が変わるから」とか「1年に占める割合が小さくなるから」くらいでさらっと流してしまう。今回はもう少し、この仕組み自体を掘ってみたい。
「ジャネーの法則」という考え方
19世紀のフランスの哲学者ポール・ジャネが提唱したとされる考え方に「ジャネーの法則」というものがある。ざっくり言うと、「主観的に感じる1年の長さは、それまで生きてきた年数に反比例する」という説だ。5歳の子どもにとっての1年は人生の5分の1だけど、50歳の大人にとっての1年は人生の50分の1にすぎない。だから同じ1年でも、歳を重ねるほど相対的に短く感じる、という理屈になる。
この法則自体はかなり古くから知られているもので、単純な「割合の話」として紹介されることが多い。ただ、後年の心理学研究では、もう一歩踏み込んだ説明も試みられている。人間が感じる時間の長さは、実際に流れた時間の量そのものではなく、脳が処理した「新しい情報の量」に比例するのではないか、という考え方だ。心理学者ダウエ・ドラーイスマの著書などでもこのテーマは扱われており、国内でも加齢と時間感覚の関係を扱った研究がいくつか発表されている。
子どもの頃の1日は、初めて見るもの、初めて知る言葉、初めて経験する感情でぎっしり詰まっている。脳はそれを一つひとつ処理するのに大量のリソースを使う。だから体感として「濃い」時間になる。
一方、大人になると、通勤ルートも、仕事の進め方も、休日の過ごし方も、だいたいパターン化されてくる。脳からすると「これは前にも処理したやつだ」と省エネモードに入れる情報が増える。処理する情報量が減れば、あとから振り返ったときの記憶の密度も薄くなる。密度が薄い記憶は、短く感じる。1年が早く感じるのは、時間そのものが早く流れているわけではなく、脳が「今年、あまり新しい経験をしなかった」と申告しているだけなんじゃないか、と思う。
「できなくなったこと」ではなく「気にしなくなったこと」を数える
年の取り方について語られるとき、なぜか「できなくなったことリスト」で自分の老いを測る人が多い。徹夜がきつくなった、脂っこいものが食べられなくなった、新しい流行についていけなくなった。分かる。分かるけど、それだけで年齢を評価するのは、ちょっと採点方式が偏っている気がする。
個人的には、「気にしなくなったことリスト」の方が、年を取ることの本当の価値を表していると思っている。他人の評価を過剰に気にしなくなった。SNSの通知を全部確認しなくても平気になった。人間関係で無理に合わせることをやめられるようになった。これは衰えではなく、情報の取捨選択が上手くなった結果だ。子どもの頃は全部が新しくて全部に反応していたから疲れていた。今は、反応するべきものとそうでないものを、脳が勝手に仕分けしてくれている。
だから、年の取り方は「新しさの作り方」で決まる
ここまでの話を踏まえると、年の取り方が上手い人というのは、若く見える人でも、健康に気を遣っている人でもなく、意図的に「初めて」を作り続けている人なんじゃないかと思う。
新しい趣味を始める、行ったことのない土地に行く、知らないジャンルの本を読む。これは「若さを保つため」というより、脳に新しい情報を与えて時間の密度を取り戻すための、かなり具体的な作業だ。逆に言えば、毎日同じルーティンを繰り返しているだけの生活は、何歳であっても体感時間としては「歳を取るのが早い生活」になってしまう。
私も最近、ドラムの連絡を始めて見ました。ドラムパッドを毎日30分たたくようにしています。私は右利きなので、左手の握力がすくないので、荷物などを意識的に左手で持つようになりました。そのおかげで左手にも力が入るようになり、ドラムスティックが軽く感じるようになりました。まだ3か月ですが、<ここに、ご自身が実際に試してみた「新しさを作る工夫」を書いてください> (例:通勤ルートを変えてみた、新しい店を開拓してみた、など。実際にやってみて感じた変化を、具体的な情景とセットで書くと説得力が出ます。「〜な気がする」で終わらせず、実際に何日くらい試して、何が変わったかまで書けると理想的です)
年齢を重ねること自体は止められない。でも「1年をどれだけ長く感じられるか」は、案外、日々の選択でコントロールできる部分が残っている。年の取り方というテーマで語るべきなのは、シワや体力の話より、こっちの方なんじゃないかと思う。
参考
- ポール・ジャネ「ジャネーの法則」(時間の心理学における古典的な理論)
- ダウエ・ドラーイスマ『なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか』
- 加藤孝義「年を取ると時間の経過を早く感じるようになるか?-高齢者の時間意識-」発達科学研究(宮城学院女子大学)



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