ジャスミン好きすぎ社員が伊藤園で起こした3年の物語

  

「お〜いお茶」の会社が、まさか香水を出すとは思わなかった

「え、伊藤園が香水?」

緑茶やジャスミン茶で有名な、あの伊藤園です。飲料メーカーが化粧品業界に足を踏み入れるなんて、普通に考えたら結構ハードルが高いはず。

でも調べていくうちに、これは単なる思いつきの新規事業ではなく、一人の社員の「好きすぎる」という気持ちが3年かけて会社を動かした、かなり地道な物語だと分かってきました。今回はそのブランド「Crazy Jasmine(クレイジージャスミン)」と、生みの親である向田陽子社長のエピソードを、できるだけリアルな視点でまとめてみます。

自宅でジャスミンを育てる「ジャスミン狂い」が発案者

ブランドの生みの親は、伊藤園のデザイナー・向田陽子さん。2006年の入社以来、約17年にわたって「Relax ジャスミンティー」のパッケージデザインを担当し、ジャスミンの魅力を伝え続けてきました。

きっかけは、「ジャスミンの香りは、咲きたてが一番いい香りがする」と気がついたこと。咲きたてのジャスミンの香りが持つ魅力に着目しました。

向田さんは現在、自宅で14種類ものジャスミンを育てながら、それぞれの花の形や香りの違いを観察しています。さらに、摘み取った花を香料会社に提供し、ガスクロマトグラフィーによる成分分析まで行うなど、理想の香りを追求し続けています。その探究心の深さから、「ジャスミン狂い」と呼ばれるほどだそうです。

というレベルまで“沼って”います。自宅でジャスミンを14種類栽培している向田社長が、自宅で育てた鉢を香料会社に送り、摘んだ花の香気成分をガスクロマトグラフィーで分析した上で調香を行っているとのこと。ここまでくると単なる趣味の域を超えていますよね。

渋谷での90分待ち、SNSがきっかけで火がついた

事業検証期間中は、東京・大阪・京都・名古屋など全国21ヶ所でポップアップストアやECでのテスト販売を重ねていました。当初は1日数万円の売り上げからスタートしたが、各地に熱狂的な“ジャスミンラバー”がいることを確認できたとのこと。最初から順風満帆だったわけではないんですね。

転機になったのは、渋谷スクランブルスクエアでのポップアップです。SNSを通じて自然発生的に共感が拡大し、予想を大幅に上回る来客数で商品が欠品する事態になり、レジは最大1時間待ちだった日もあったそうです。一部メディアでは、オープンから2日目にレジ待ちが約1時間になるほどの盛況で、3日目には香水がほぼ欠品するなど大きな反響を呼んだとも報じられています。

バングルより「肌に直接つけたい」という声が香水化のきっかけに

実はCrazy Jasmineが最初に発売した商品は香水ではありませんでした。飲料メーカーである伊藤園には化粧品を扱った経験がほとんどなく、まずは肌に直接つけない「アロマウッドバングル」という雑貨として展開したそうです。最初は肌につけない雑貨として、香りをバングルに付けることで香りをオン・オフできる商品を開発していたとのこと。

ところが、いざ販売してみると想定外の反応がありました。

  • バングル本体はあまり売れない
  • ロールオン容器のフレグランスの方が人気
  • 「肌に直接つけたい」「香水として売ってほしい」という要望が多数

事業開始から約1年後、都内のルミネ池袋で実施したポップアップで同商品を発売したが、バングル本体よりもロールオン容器に入ったフレグランスの方が売れ行きが良かったそうです。購入者からも「肌に直接付けたい」「香水として販売してほしい」といった声が多く寄せられたことから、2025年3月に香水の発売に至ったという経緯があります。

顧客の声に押されて事業計画を修正するのは、大企業の新規事業としてはなかなか柔軟な判断だなと感じます。実際、「化粧品登録をして、香水として展開したい」という判断に至り、事業計画会議で「スプレー香水に変更して、化粧品としてもう一回売ってみたい。あと1年間事業検証させてください」という提案をしたそうで、社内調整も一筋縄ではいかなかったことがうかがえます。

現在、ムエット(試香紙)セットも販売されていますが、これも「まずは香りを試してほしい」というニーズに応える形で用意された商品と言えそうです。

3年間の検証を経て、ついに分社化「Crazy Jasmine Tokyo」誕生

2022年度の社内ベンチャー応募から数えて、2023年5月に採択、約3年間のテスト販売および事業検証を経て、2026年5月に新会社「Crazy Jasmine Tokyo」として分社化したという流れです。まさに3年越しの独立です。

伊藤園としても、これは単なる一商品のヒットではなく、新規事業モデルの成功例として位置づけているようです。直近のポップアップストアでは多くの製品が完売し、生産体制の回復を受けて開始した予約販売も想定を上回る反響を得るなど、高い支持を集めているとのことで、市場の手応えが分社化の後押しになったとされています。

社長に就任した向田さんは、今後の展開について世界進出も見据えています。「世界展開を目指す。まずは伊藤園がジャスミン茶を販売しているタイやインドネシアなどに展開したい」と意気込んでいたそうです。

書き手の視点:この話、意外と地味で誠実だった

ここまで調べてみて感じたのは、「バズって一気に売れた」という表面的な話だけでは終わらないということです。

  • 最初は1日数万円の売上からスタート
  • バングルという“読み違い”があった
  • 顧客の声を受けて方向転換するまで1年かかった
  • 分社化まで丸3年

むしろ地味な失敗と修正の繰り返しだったことが、記事を読み込むほど見えてきます。SNSでバズった渋谷のポップアップも、突然の奇跡ではなく、地方を含めた21ヶ所での地道なテスト販売の積み重ねの先にあったものです。

個人的には、「大企業の看板があったから信用された」という側面と、「個人の“好きすぎる”という熱量がなければ始まらなかった」という側面の両方が同時に成立しているのが面白いところだと思います。年配の客には「この香水、実は伊藤園なんです」と伝えると、知っている企業の安心感から購入につながるケースもあるという話がある一方、そもそもの発端は完全に一社員の個人的な好奇心でした。美化して「感動ストーリー」に仕立てるのは簡単ですが、実際には売上が伸びない期間や、社内承認プロセスの煩雑さといった地味な苦労も並走していたことは、公平に触れておくべきだと思います。

まとめ:ジャスミン好きな人にも、新規事業に興味がある人にも刺さる話

Crazy Jasmineの物語は、

  • 一人の社員の「好きすぎる→愛→狂」という深い気持ちから始まったこと
  • 社内ベンチャー制度という仕組みがそれを後押ししたこと
  • 顧客の声で商品設計を柔軟に変えたこと
  • 3年という決して短くない検証期間を経て伊藤園で認められ会社として新たなスタートを切ったこと。本人の努力の賜物!

という要素が組み合わさった、割と珍しいケースです。ジャスミンの香りそのものに興味がある人はもちろん、社内ベンチャーや新規事業の立ち上げに関心がある人にも参考になる事例だと思います。

咲きたてのジャスミンの香りは、一日しか楽しめないといわれています。その一瞬の美しさを多くの人に届けたいという思いが、「Crazy Jasmine」というブランドを生み出しました。香りに興味がある方はもちろん、「好き」という情熱が新しい事業を生み出す力になることを感じさせてくれる、そんなストーリーではないでしょうか。

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