中卒から慶應通信へ——小沢一敬さんの学び直しに見る「学びのタイミング」

はじめに
お笑いコンビ・スピードワゴンの小沢一敬さんが、活動休止期間中に中卒から慶應義塾大学の通信教育課程へ進学していたというニュースが話題になりました。「学生時代にもっと勉強しておけばよかった」と感じたことのある人にとって、このニュースは他人事ではないはずです。

この記事では、小沢さんのエピソードの事実関係を整理したうえで、日本における「学び直し(リカレント教育)」の実際のデータと、私自身が社会人になってから学ぶことの面白さに気づいた経験を交えながら、「大学に行くタイミング」について考えます。

中卒だったスピードワゴン小沢一敬が、なぜ大学生になったのか

小沢一敬さんは2024年1月から約2年2カ月にわたり芸能活動を休止し、2026年3月に活動を再開しました。8月14日に配信されたTOKYO MXのポッドキャスト番組「IBJ presents 人生は出会いでできている」に相方の井戸田潤さんとともに出演し、休止期間中の出来事を初めて明かしています。

番組内で小沢さんは、休止期間中に猛勉強して高校卒業程度認定試験(高卒認定)に合格し、その後、大学受験を経て慶應義塾大学の通信教育課程に入学していたことを告白しました。共演者から「学生さんなんだね?」と聞かれた際には「はい。2年前は中卒でした」と答えており、井戸田さんも活動休止前後のギャップの大きさに驚きを口にしています。

芸能人としてすでに知名度もキャリアもある中で、まったく別のフィールドである学業に挑戦する決断をした背景には、周囲の目よりも「学びたい」という気持ちを優先する強い意志があったと考えられます。

慶應通信の卒業率はわずか6%、生半可な道ではない

小沢さんは番組の中で、慶應義塾大学の通信教育課程について「日本の通信で一番難しいらしい」と語っています。他の大学の通信課程を卒業した場合は「〇〇大学通信卒」と名乗ることになりますが、慶應の場合は通信課程を卒業しても単に「慶應卒」と名乗ってよいとされているそうです。それだけ卒業自体のハードルが高いということでもあります。

実際、卒業までに必要な単位はおよそ140単位で、卒業できる人の割合はわずか6%程度とも語られていました。授業への出席は必須ではないものの、レポートを提出して合格をもらい、試験を受けて単位を積み上げていく地道な作業の連続です。小沢さんも「レポートが本当に通らない」と、その大変さを率直に語っています。

一般的に大学通信教育課程は、通学制と比べて自己管理の負荷が高いことが知られています。決まった時間割がなく、学習ペースをすべて自分で組み立てる必要があるため、モチベーションの維持自体が最大の壁になりやすいのです。慶應通信の卒業率の低さは、こうした構造的な難しさの表れだと言えるでしょう。

社会人の学び直しは、実はそれほど珍しくない

日本では長らく「大学は18歳で行くもの」という価値観が根強く、高校を卒業したらすぐに大学受験、というレールに乗ることが当たり前とされてきました。そこから外れることに不安や後ろめたさを感じる人も少なくありません。

しかし、実際のデータを見ると、社会人の大学進学は決して特殊なケースではありません。文部科学省の調査資料によると、大学の社会人入学者数(推計値)は近年おおむね1万7千人前後で推移しており、令和3年度には約1万9千人と過去最多を記録しています。これは大学入学者全体の16.7%にあたる数字です。つまり、大学に入学する人のうち、およそ6人に1人は現役の高校生ではない社会人だということになります。

こうした背景もあり、近年は「リカレント教育(学び直し)」という言葉が、個人のキャリア形成だけでなく国の政策キーワードとしても使われるようになっています。大学に行くタイミングは、もはや18歳に限定されたものではなく、社会人になってからの選択肢としても一定の広がりを持っているのです。

学ぶ面白さに気づいたのは、社会に出てからだった

私自身、学生時代はお世辞にも勉強熱心とは言えないタイプでした。授業中は早く終わらないかとばかり考えていましたし、テスト前の一夜漬けが当たり前でした。

転機になったのは、社会人になって何年か経った頃、人事異動で労務管理の仕事を担当するようになったときです。就業規則の変更や労働時間管理をめぐって、労働基準法や関連する通達を自分で調べて解釈する必要に迫られました。学生時代の勉強は「テストのために覚える」ものでしたが、この時の勉強は「目の前の課題を解決するために調べる」ものでした。この違いは思っていた以上に大きく、必要に迫られて開いた法律の条文が、初めて「面白い」と感じられた瞬間でした。

同じ「勉強」という行為でも、目的意識がある状態とない状態とでは、頭への入り方がまったく違います。小沢さんが慶應通信という厳しい環境で学び続けられているのも、資格や単位そのものよりも「学びたい」という内発的な動機が根底にあるからではないかと感じます。

中卒というキャリアは、学び直しの妨げにならない

小沢さんのケースで印象的なのは、「中卒」という出発点から、高卒認定を経て難関大学の通信課程まで進んだという点です。学歴だけを見れば大きなハンデに思えるかもしれませんが、本人の意志と行動があれば、キャリアの途中からでも道は開けるということを、このエピソードは示しています。

学歴は「それまで何を積み上げたか」の記録であって、「これから何ができるか」を縛るものではありません。中卒だから学べない、社会人だから今さら遅い、というのは、多くの場合、本人が作り出した思い込みにすぎない可能性があります。実際に、前述の統計が示すように、社会人になってから大学で学び直す人は一定数存在し、特別な少数派とは言えなくなってきています。

まとめ

スピードワゴン小沢一敬さんが、活動休止という誰にも予想できなかった時間を使って、中卒から慶應義塾大学通信教育課程まで進んだという事実は、多くの人に「学び直し」のリアルな可能性を示してくれるエピソードでした。卒業率6%という厳しい環境の中で、レポートに苦戦しながらも学び続けている姿は、決して華やかなだけの話ではありません。

社会人入学者が入学者全体の1割強を占めるというデータが示すとおり、学び直しは特別なことではなく、すでに一定数の人が選んでいる現実的な選択肢です。年齢や学歴、過去の選択にとらわれず、「学びたい」と思ったタイミングこそが、自分にとっての正しいタイミングなのかもしれません。もし今、心のどこかで「もう一度学んでみたい」という気持ちがあるなら、その小さな気持ちを大切にしてみてほしいと思います。

参考・出典

  • モデルプレス「スピードワゴン小沢一敬、活動自粛中に“難関大学”進学していた『2年前は中卒でした』」
  • ライブドアニュース「スピードワゴン小沢 活動休止中に中卒から名門大へ進学していた 井戸田『ギャップは凄い』」
  • スポニチアネックス(Yahoo!ニュース)「スピードワゴン小沢 活動休止中に名門大に入学」
  • ライブドアニュース「スピードワゴン、復帰後初の2人そろってメディア出演 小沢一敬は慶大通信課程で学ぶ現役大学生に」
  • 文部科学省「参考資料集」(令和5年9月25日、社会人入学者数に関する統計データ)

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