高校野球 歴史に残る試合、2006年 夏(決勝)【その1 】駒大苫小牧 1-1 早稲田実業|なぜ今も語り継がれるのか

あの日、甲子園には勝者も敗者もいなかった。

いたのは、最後の一球まで青春を燃やし尽くした18歳たちだけだった。

午後4時を過ぎても、誰も席を立たなかった

夏の甲子園決勝は、午後には優勝校が決まり、優勝旗が掲げられる。

それが当たり前でした。

しかし、2006年8月20日だけは違います。

午後4時を過ぎても、甲子園は終わりませんでした。

アルプススタンドでは、応援団が何度もメガホンを打ち鳴らしています。真夏の日差しを浴び続けたブラスバンドの音色は少しかすれ、それでも演奏は止まりません。

グラウンドでは、ユニフォームが土と汗で汚れた選手たちが、静かに自分のポジションへ向かいます。

スコアボードに並ぶ数字は、たった二つ。

1―1。

「次で決まる。」

誰もがそう思いました。

でも、その「次」は、何度訪れても終わりませんでした。

延長10回。

11回。

12回。

そして13回。

私は今でも、この試合を見ていたときのことを鮮明に覚えています。

「早く終われ」とは思いませんでした。

むしろ、心のどこかで「終わってほしくない」と願っていたのです。

そんな気持ちになったスポーツは、後にも先にもこの試合だけでした。


高校野球 歴史に残る試合、2006年 夏(決勝) 駒大苫小牧 1-1 早稲田実業――二つの運命が交わった夏

第88回全国高校野球選手権大会。

決勝のカードは、北海道の駒大苫小牧と、西東京代表の早稲田実業でした。

駒大苫小牧は、2004年、2005年と夏の甲子園を連覇し、史上7校目となる夏3連覇に挑んでいました。

対する早稲田実業は、王貞治さんをはじめ数々の名選手を輩出した名門校。しかし、夏の全国制覇にはあと一歩届かず、「悲願の初優勝」を目指していました。

この対戦だけでも十分にドラマがあります。

しかし、日本中が注目した理由はもう一つありました。

両チームのマウンドには、18歳とは思えない二人の投手が立っていたのです。


まだ誰も知らなかった、「ハンカチ王子」と「マー君」の未来

早稲田実業のエース、斎藤佑樹。

駒大苫小牧のエース、田中将大。

今では誰もが知る二人ですが、当時はまだ高校3年生でした。

斎藤投手は、冷静なマウンドさばきと抜群の制球力で勝ち上がってきました。

一方、田中投手は、力強いストレートと気迫あふれる投球でチームを引っ張ります。

性格も、投球スタイルも対照的。

だからこそ、多くの人がこの対決に引き込まれました。

ただ、この時点では誰も知りません。

一人はプロ野球を経てメジャーリーグのマウンドに立ち、日本球界を代表する投手になることを。

もう一人は「ハンカチ王子」と呼ばれ、日本中を巻き込む社会現象の中心になることを。

この日の二人は、未来のスターではありません。

ただ、仲間のために白球を追い続ける18歳の高校球児でした。


試合は静かに始まり、静かに熱を帯びていく

試合開始直後から、球場には独特の緊張感が漂っていました。

決勝戦らしい慎重な立ち上がり。

両校ともに守備の集中力が高く、簡単には得点を許しません。

ヒットは出る。

ランナーも出る。

それでも、あと一本が出ない。

甲子園では、不思議な空気が流れ始めます。

「これは、一点を争う試合になる。」

誰も口にはしませんでしたが、スタンドの誰もがそう感じていたはずです。

三振を奪うたびに歓声が上がり、ファインプレーが飛び出せば敵味方を問わず拍手が送られる。

決勝戦特有の張り詰めた空気の中で、少しずつ、観客の心は試合へ吸い込まれていきました。


私は、この試合の主人公は二人だけではないと思う

この試合を振り返ると、多くの人は斎藤佑樹投手と田中将大投手を思い浮かべます。

もちろん、それは間違いありません。

しかし、私は今だからこそ思うのです。

本当の主人公は、甲子園にいた全員だったのではないか、と。

何度もチャンスを逃しても声援を送り続けた応援団。

エースを信じて守り続けた野手。

ベンチで仲間を励まし続けた控え選手。

そして、一球も見逃すまいと最後まで席を立たなかった観客

誰か一人でも欠けていたら、この試合は「伝説」にはならなかったはずです。

高校野球は、エースだけがつくるものではありません。

グラウンドに立つ9人、ベンチにいる仲間、アルプススタンド、そして観客。

そのすべてが重なったとき、初めて「歴史に残る試合」が生まれるのだと、私は思っています。


次回――「その一球が、歴史を止めた」

試合は終盤へ向かいます。

8回、ついに均衡が破れます。

しかし、その直後に待っていたのは、誰も予想しなかった劇的な展開でした。

延長戦。

そして、延長15回。

決勝戦が終わらない――。

次回は、この試合が「高校野球史上最高の名勝負」と呼ばれる理由となった、運命の終盤を、一球一球の重みとともに振り返ります。


参考・情報源

  • 日本高等学校野球連盟「第88回全国高等学校野球選手権大会」
  • 朝日新聞「バーチャル高校野球」2006年大会アーカイブ・決勝試合記録
  • 阪神甲子園球場 大会アーカイブ

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